週刊ヤングジャンプに掲載されたインタビューを公式サイトでも公開!
【第2弾】
音響監督:小泉紀介
◆コロナ禍の影響をもろに受けた音響制作
――:コロナ禍において、一番影響を受けたのは音響制作周りだと伺っています。
小泉:確かにコロナの前後でまったく環境が変わってしまいましたね。『キングダム』は
多いときには1話に30名近くのキャストが参加する作品です。コロナ前は一斉に収録することが可能でしたが、スタジオ内に同時に入れる人数が制限されるようになり、一斉収録が難しくなってしまいました。収録にかかる時間も倍増しますし、なにより役者さん達が「かけ合い」で演技できなくなるので、そこが一番のネックですね。あとは大勢での「ガヤ」の収録もできなくなって…。信役の森田成一さんがインタビューで『キングダム』の見どころの1つに出演者全員で一斉に合戦中の声や城内の雰囲気を収録する「ガヤ」をあげられていたんですが、集団でのガヤ録りができるようになって、初めて元通りの環境に戻ったといえると思います。
――:現場でのディレクションについても、コロナ禍で変化がありましたか?
小泉:大きく変わりましたね。全員で同時収録する場合は全体の流れを俯瞰で見ながら、その場その場での臨機応変なディレクションが可能なんです。それが何人ずつかのグループごとの収録になってしまうと、次に演じる役者さんの芝居を前もって想定しながら収録しなくてはいけなくなります。事前のプランニングも含めて、単純に「考える」作業が何倍にも膨れ上がっていますね。役者さんの立場にしても、同時に収録していれば直前のシーンの芝居を目の前で聞いているわけですし流れもつかみやすいんですが、そういった「繋ぎ」も含めてディレクションしないといけないんです。
――:そういう形での収録は初めての経験だったんですか?
小泉:そうですね。ずっと多人数での収録が当たり前の世界でしたから。もちろんこれまでにもキャストさんのスケジュールの都合で「抜き録り」になる状況もありましたが、ここまで個別収録だらけというのは初めての経験です。…正直、精神的にもかなり削られてますね(笑)。
――:役者さんの戸惑いも大きかったですか?
小泉:そういった環境でもきちんと対応が出来る役者さんに仕事をお願いすることが多くはなりました。やはりとにかく時間がない状況なので、個別録りでも他の役者さんの芝居や呼吸をちゃんと読めて合わせられるスキルを持った方を頼りにしてしまいますね。
――:この環境に対応できるようにはなってきてはいるんですか?
小泉:もう1年近くこの状況が続いているので、ノウハウは出来てきましたね。換気、消毒の手順や役者同士がバッティングしないような導線作りまで、スタッフや制作の皆さんには相当気を遣って頂いています。ただ、正直このノウハウって、緊急時以外には必要のないものなので、今後何かに活かされるのかは疑問ですが(笑)。
――:リモート環境でのやりとりはいかがですか?
小泉:皆さん、なかなか意見が言い辛い環境ではありますね(笑)。どうしても各自のリアクションに時間がかかって、その間にもどんどん現場の収録は流れていっちゃいますから。タイムマネジメントがとても難しいです。
◆とにかく「叫ぶ」収録現場
――:この作品のディレクションについてですが、どのようなことに気を遣われましたか?
小泉:これは私個人のこだわりでもあったんですが、あまり「アニメ」を意識しないような芝居をお願いしました。『キングダム』では生身の人間が生きているという様を表現したかったんです。誇張やデフォルメは控え気味で、なるべく自然体な「人間」を演じて欲しいという要望については役者さんとも共有していました。
――:役者さんとのやりとりで、記憶に残っていることを教えて下さい。
小泉:田中美央さんに演じてもらった汗明は、戦場で大声をあげるシーンが多いキャラクターなんですが、何度もテイクをお願いしていくうちに、田中さんの喉が切れてしまって…。田中さんが汗明の叫びのボルテージをどこまで上げればよいのか探り探り演じられていたんですが、隣で信役の森田さんがボルテージマックスの叫び声をあげるので、「そうか!そこまで必要なんだ!」と意識されて頑張られた結果、頑張ってもらい過ぎるという結果に…。ちなみに森田さんも、第1シーズンの頃は叫びの芝居でそういった経験があったそうなんですが、やってるうちに慣れて喉が強くなったなんて話されてました。
――:「叫び」の芝居については、どんな指示をされていましたか?
小泉:ただ叫ぶだけではなく、「何のために、どういう意図があって叫び声をあげているのか」を大切にしています。例えば汗明の叫びなら、戦場全体を支配し、相手を威嚇、力を誇示する意味を持つ咆哮です。それは仲間や自分を鼓舞する信の叫び声とは違うものですよね。『キングダム』には、そういった緩急や演じ分けが可能な役者さん達が揃っているので、ディレクションへの理解も早くて助けられています。
――:その他に印象に残る芝居のシーンはありますか?
小泉:月並な言い方になりますが、どのシーンの芝居も心に強く残っていて…(笑)。私のディレクションの考え方の1つなんですが、台詞の後の「キャラクターが喋っていないシーン」に繋げていくために、その直前までの台詞を作り上げていきたいというのがあります。例えば物語の後半で政が「黙礼」をする重要なシーンがあるんですが、そのシーンの前には黙礼へと繋がっていくための長い台詞回しがあるんです。その台詞の収録は、政役の福山潤さんともよく話し合って、何度もテイクを重ねさせて頂きました。また、「とある経緯」によって戦争に参加せざるをえなくなる民兵達の芝居にも注目して欲しいですね。弱々しい、槍も持ったことのない一般人が段々と立ち上がっていって、最後には国を守るために奮起するという…ただ、それでも「強く」はないんですよね。筋肉質な一般の兵士とは違うんです。そのあたりの違いについても、かなりこだわってディレクションさせてもらっているので、演技の違いに気付いてもらえると嬉しいですね。
視聴者にも届く制作陣の熱量!
――:最後にファンに対してメッセージをお願いします。
小泉:『キングダム』は、制作陣の熱量がとにかく凄い作品です。それぞれの思い描いている「キングダム像」があって、それを日々ぶつけ合いながら制作しています。制作陣、役者、全てのスタッフに揉んで揉んで揉まれたものがオンエアになっているんです。その熱量は視聴者の皆さんにも伝わると思います。この作品は主人公の信だけではなく、1人1人のキャラクターにドラマがあります。それぞれ戦場に立っている理由も違いますし、言ってしまえばモブの兵士にだってそれぞれの人生があるんです。兵士役の若い役者さんにディレクションをするときには、死にたくないけど国のために犠牲になったり、志半ばで斬られて死んでしまったりという感情まできちんと出してもらうようにしています。『キングダム』って、アフレコが終わったあとの疲労感が尋常じゃないんですよ(笑)。疲れ果てて雑談する余裕もないほど。それだけの熱量で制作していますので、きっと楽しんでもらえる作品になっていると思います。
TVアニメ「キングダム」2021年4月4日(日)24:10~ NHK総合にて放送開始!
▶第2弾メインPV公開中!
▶第3シリーズの放送に先駆けて、第1・2シリーズのBlu-ray BOXが発売!
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